総務省は「独創的な人向け特別枠(仮称)」との名称で、【平成26年度より新規に開始する事業として、予測のつかないICT分野において破壊的な地球規模の価値創造を生み出すために、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題に挑戦する人を支援するものである。常識にとらわれない、いわゆる「変な人」への支援を行うことで、イノベーションの創出を目指す人材の異色多様性を拓き、「Disruptive Change」をもたらす契機を拡大することを目的とする。】公募を始めました。
詳細は総務省Webサイト「平成26年度「独創的な人向け特別枠(仮称)」に係る業務実施機関の公募」に掲載されていますが、言ってることが解りにくいです。簡単に言うと今までの常識にとらわれない発想を持った人を発掘し、300万円の研究費を支給しますよというものです。

詳細資料にもApple社の創業者スティーブ・ジョブズの名前をあげていますが、日本人から次のスティーブ・ジョブズを生み出したいとの思いがあるようです。
以前から指摘されていますが、日本人は応用力は優れているが、独創性に欠けると言われています。たしかに現在世界に影響を与えている企業、Google、Microsoft、Twitter、Facebookなども全て海外の企業です。当然、日本としても黙ってはいられない。そこで総務省のお出ましです。しかし、このイノベーション企業を見つけろ、育てろはITバブル到来のころから叫ばれていました。しかしそれから10年以上経ちましたが残念ながら1つも現れてはいません。
楽天やミクシーの成功を上げる人もいるかもしれませんが、いずれも海外企業の成功事例をもとに国内でサービスを展開したにすぎません。
今回の総務省の公募ですが、書類審査と面談によって10名程度が決まるようです。しかし、審査の基準や誰が審査を行うのかなどは公表されていません。取組の狙いは理解できますが、なんだか日本的だな〜と感じてしまうのは私だけでしょうか?
つまり、やっていることが「型にはまっている」感じがするのです。イメージされるのは年末に決めるレコード大賞です。誰だかわからないおじさん達が、会議室みたいな部屋でゴニョゴニョして決める。
そして選ばれるのは、色々な思惑もあり箸にも棒にもかからないような、紋切り型の曲。
そもそも、音楽もそうですが、ビジネスにしても、評価軸は様々です。ましてイノベーションを起こすビジネスを一部の人の主観で事前に見つけるなど、あまりにも非現実的です。
今の日本人の誰が成功前のスティーブ・ジョブズを見つけることができるのでしょう?(まさか秋元康氏さんは選考委員にはいませんよね?)さらに300万円って、ずいぶん安上がりですね。とってもお役所的な感じです。

スティーブ・ジョブズを探すために、国や役所がやらなければならないことは他にあると思います。
そもそも日本のビジネス環境が創造性を持った企業や創業者を生み出しにくい状況になっています。アメリカの場合、ベンチャー企業の創業がとても盛んです。その大きな理由が融資を受ける際の連帯保証人の制度にあります。ご存知のとおり日本の場合ですと、融資を受ける際には、ほとんどのケースで連帯保証人が必要になります。会社が借り入れする場合にも、社長が保証人になります。万が一事業が破綻した際には、社長個人も大きなキズを受けます。ところがアメリカでは連帯保証人の制度がありません。また、日本では一度事業に失敗した経営者は失格者の烙印が押され、再チャレンジのハードルが非常に高まります。アメリカでは失格者の烙印が押される前に、その失敗の内容を評価され、「意味のある失敗」の場合、経営者としての有効な経験として、評価が高まる場合さえあります。
このようなビジネス環境の違いではイノベーションは起きにくいのではないでしょうか。
この状況を踏まえ、日本でもようやく連帯保証人の廃止に向けた民法改正の動きが出ていました。遅ればせながらとても良いことだと思いますが、喜んでばかりはいられません。改正されれば金融機関の貸し渋りが助長されることも予想されます。

次のスティーブ・ジョブズを探すことよりも、スティーブ・ジョブズが現れやすい環境づくりこそ、国にはお願いしたいと思います。 最後にこの話のオチですが、日本ではおっとり刀で探し始めた第二のジョブズですが、実は世界的にはもう現れています。それはイーロン・マスク氏(43歳)です。IT関連企業の起業で財をなし、電気自動車会社のテスラモーターズ社、さらにはロケットを製造開発するスペースX社を起業しています。そして、そのスペースX社はNASAのスペースシャトル後継機となる有人宇宙船の開発を委託されることになりました。今後最も注目される人物です。